戸田の昔話 第六話
狐に化かされた話
むかし、川岸のあたりがまだ草深く、浮間(東京都)まで地つづきだったころです。魚とりの上手なおじいさんが、いつものように荒川にたてぼしで魚をとっていました。その日はいつもより魚がいっぱいとれましたので、おじいさんは喜んでビクに入れ「こりゃあすごい!魚好きのおばあさんがよろこぶだろう」と夜道をトコトコいそいでかえりました。
ところが、いくら歩いても歩いても家につきません「おかしいな、あそこに灯りが見えるんだが・・・」しかし、同じところをぐるぐる廻っているようです。「これはいけねえ、きっと狐のしわざだんべえ、なあに狐なんかに化かされてたまるか」とビクをしっかり持ちなおして歩きつづけました。
しばらく行きますと、どこからあらわれたのか前の方を手ぬぐいをかぶった娘さんが一人で歩いておりました。「はて!こんなに夜おそく、娘さんが・・・へんだなあー まてよ!こいつはやっぱり、きつねの奴だんべえ、くわばら、くわばら」とおじいさんは、とうとう走りだしてしまいました。
やっとのおもいで家にたどりつき、おばあさんに「ほれ!こんなにいっぱい魚がとれたよ」とビクさしだしました。が、ビクの中には一匹の魚も入っていません。これは、娘さんに化けた狐が、おじいさんの先を歩いているように見えましたが、その実は、おじいさんの後からビクの魚を全部、取っていってしまったのでした。
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