戸田の伝説 第九話
蘇民将来
むかし上戸田村の荒川近くに、羽黒山のお宮がありました。
このお宮は、塚のような高いところにあって遠くからもよく見え、とても景色がよかったので、中山道をとおる人たちは、ここによって名物のおだんごを食べるのが楽しみになっていました。
そのうえ、お宮から「蘇民将来」というありがたいお守り札がいただけるというので、境内はいつもおまいりの人でにぎわっていました。
このお守り札のいわれは、ずっとずっと古いことです。
むかし武塔天神という神さまが、北のくにから南のくにへ行く途中で夜になってしまいました。
どこか泊めてくれる家はないものかと、しばらく歩いていくと、むこうに家が二軒見えました。
それは「将来」という兄弟の家でしたので、神さまは、はじめに弟の巨旦将来というお金もちの家にいき、泊めてもらいたいとたのみました。ところが、弟の巨旦将来は思いやりのない人で、だめだ!とことわってしまいました。
神さまは、しかたなく今度は兄の貧しい蘇民将来という家にたのむとその家はみんないい人ばかりで、親切に泊めてくれ、そのうえ、たくさんごちそうをつくってもてなしてくれました。
神さまは、「お前の家は心がけのいい家だ、いつまでも守ってやろう」とおしゃって、これを入り口へはっておくようにと、紙に「蘇民将来子孫家也」と書いて渡してくださいました。
その夏、悪い病気がはやり、弟の家はみんな死んでしまいましたが、親切だった兄の蘇民将来の家では、みんな元気よく暮らすことができましたので、いつまでもいつまでも栄えたということです。
いまはこのお守り札をはってある家が見られませんが、むかしは戸田にも、蘇民将来の子孫がおおぜいいたかもしれません。