戸田の伝説 第一話
八まんさまの鐘
美女木の八まんさまには、県の文化ざいになっている大きな銅のつりがねがあります。
いい伝えによれば、今から七百数十年も前の建保年間(鎌倉時代)のこと、この神社の南のほうに大きな池があって、あるとき、風もないのに波がさわがしく、池の底からは、「かみなり」のようなものすごい音がひびき出しました。
人びとは、何事かとおどろいて集まってきましたが、ますますひどくなるばかりで、どうすることもできませんでした。このようなことがいく日もつづきましたので、人びとはみんな心配して、夜も眠れないほどでした。
ある日、たまたま旅のお坊さんが通りかかりましたので、村の人がこのことを話しますと、お坊さんは、「それはお気の毒に」と、すぐ熱心におがんでくださいました。
おがんでおりますと、そのうちだんだんと、波も音も静かになってきました。人びともいっしょになっておがんでおりましたが、ふと顔をあげて見ると、水の上に何やら浮かんでいるものがあります。
何だろうと大さわぎになりました。
勇気のある人が、それに綱をつけましたので、みんなしてこれを丘に引きよせようとしますが、なんとしてもうごきません。そこで、また、おがんでもらいましたところ、今度は、らくらくと引きよせることができました。見ると、りっぱな大きいつりがねです。
そこで人びとが、どんな音がするかとためしについてみると・・・・・・
八まんへいこうー
八まんへいこいうー
と聞こえました。信心深い人びとは、「きっと龍宮のおとひめ様から八まんさまへのおくり物なのだろう」と、早速これを美女木の八まんさまへ納めました。
ところがふしぎなことに、その後、この鐘をつきますとそのたびに大水が出て、人びとが困りましたので、それからは「水鐘」といって恐れ、だれもつくことをしなくなりました。
今もこの鐘は、けっしてついてはいけないといわれています。