戸田の伝説 第四話
お水もらい
むかし、このあたりに、「わらびさま」というたいへん偉いお殿さまが住んでおりました。お殿さまはやさしく親切で、よい政治をしていましたので、村の人びとから尊敬され、したわれておりました。
ところがあるとき、いくさがはじまってしまいました。お殿さまは、やむをえず家来をつれて出陣し、いさましく戦いましたが、なにしろ敵の数が多く、味方はあまりにも少ないため、ついに負けいくさになってしまいました。
お殿さまは、とうとう家来ともはぐれ、歩いていくと、目の前に広い大きな川が流れていました。その川はとても深そうで、渡ることはできません。そして、あたりはどこも血の海です。がっかりして、これではどうしようもないとあきらめたお殿さまは、「もはやこれまで・・・・・・」と、そこでいさぎよく切腹してしまいました。
ところが、大きい川に見えたのは、いちめんの「そば畑」で、それがまっ盛りに白い花を咲かせていたのです。しかも「そば」は茎が赤いので、それが血の色に見えてしまったのです。
この話を伝え聞いた村の人びとは、たいへん悲しんで、それからは、村のどこの家でも、畑に「そば」をつくらないようになりました。
また、このとき、お殿さまが戦死したというしらせをうけた奥方さまは、侍女と二人で、榛名の池へ身を投げて死んでしまいましたが、これまでの村のことをなつかしがり、「これから先、わたしの村の人びとが日照りで困ったときは、雨を降らせてあげよう。作物をいためるヒョウの害から守ってあげよう」とおちかいになりました。
そして、奥方さまは「龍神」に、侍女は「カニ」になって、いつまでも村の人びとを守っているということです。
いつのころまでか、美女木の村でも日照りが続いて田植えに困ったとき、「お水もらい」といって、八まんさまに集まって、人を選んで榛名のお山へお参りにいき、池のお水をいただいてきました。このお水を田んぼにそそぐと、どんな日照り続きのときでも、たちまち雲がわきおこり、雨が降ってきたといわれています。