戸田の伝説 第二話
かっぱの金さん
戸田市は、西から東南方へかけて荒川が流れていますので、昔から川に関係のあるお話がいろいろあります。
かっぱのお話もその一つで、昔の人は、川や沼の中にはかっぱが本当にいると信じていました。ですから、小さい子が川へおよぎや遊びに行くと、かっぱがいるからあぶないと注意しました。
もっとも、昔の荒川は、今とちがってカーブが多かったので 流れ方もさまざまで、急に深くなる「ふち」や「うず」というところが何か所もありましたので、そのような深いところには、かっぱがいたのかもしれません。今でも「ケサがふち」「ネネがふち」「カネがふち」などという名が残っています。
享保年間のことといいますからおよそ二百数十年も前のこと、大野新田(堤外地にあった昔の村)に金平という人が住んでいました。すぐそばが荒川なので、毎日好きな魚捕りをしていましたが、ある日、投網の中に「へんな動物」がかかってしまいました。こわごわ見ると手も足もあり、眼だけが異様に光って、少しばかり毛もあるところから、「かっぱだ!」ということになり、びっくりしてしまいました。
荒川の近くに住んでいても、「かっぱ」というものをだれも実際に見たことがなかったので、このお話は、たちまちひろがってしまいました。
これを聞いたある商売人が、これだけ人気があるのだからお金をとって見せればもうかるぞ!と考え、このかっぱを金さんから買い受けて、まず、吹上の観音さまで「見せ物」にしようと、にぎやかに宣伝を始めました。これがまたすごい人気で、連日おおぜいの人が見物に集まりました。
あまりにぎやかなので、金さんもどんな様子かと、ある日見に行くと、なんとおどろいたことに「かんばん」には、金さんの似顔がかっぱのようにかかれているではありませんか。これにはさすがの金さんもカンカンに怒って、「おれはかっぱは売ったがかんばんは売らぬ」とどなりつけました。そのとおりなので、その商売人はあやまるばかりだったそうですが、この時の金さんの顔が、また、なんと「かんばん」そっくりだったというわけで、かえって見物人がふえ、その商売人は、たいそうもうかったということです。