戸田の伝説 第五話
かっぱの子
荒川は、昔から日常生活のうえで深いつながりがありました。物をはこぶ船を通してくれるのも、魚や貝をそだててくれるのも荒川だし、こどもたちが水あそびにいくのも荒川でした。
しかし、こどもたちが水あそびにいくと、深いところは「かっぱ」がいるから気をつけるんだよ、と母親は注意したものです。
こどもたちも、かっぱがどんな形の動物か見たことはありませんが、水の中ではどんな強い人でもかなわず、尻くり玉をぬかれてしまうと聞いていたので、その恐ろしさはよく知っていました。
しかし、このかっぱも、ときにはあいきょうのあるいたずらをしたり、こどもに化けていっしょに遊んだこともあったそうです。
昔の荒川は、道満河岸の上流で急なカーブとなっており、流れも急だったので、そこは深い淵となっていました。ですから、そのようなところでは水あそびをやる子もいませんでした。
古い古いお話ですが、ある夕方この川の丘の畑で、お百姓がクワで麦の手入れをしていると、だれか後からお尻をさわるものがありました。しばらくするとまたさわるので、だれだろうとふりむくと、そこには近所で見たこともない七、八歳ぐらいのこどもがたっていたずらをしていたのです。
その後もいつも夕方日が落ちると、どこからともなく畑にやってきていたずらしたり、草むしりを手伝ったりしたそうですが、あるとき遊びすぎて、あたりがまっくらになってしまいました。すると、深い川の底の方から「ネネヤ、ネネヤ」とその子を呼ぶ母親の声が聞こえてきました。
そのお百姓も、はじめて「これはかっぱの子だ」と気がつき、青くなって家へにげかえったそうですが、その後も夕方になると、遊びすぎたこどもを呼ぶ親がっぱの声が、川底から「ネネヤ、ネネヤ」と聞こえてきましたので、人々もいつしかこの川の付近を「ネネが淵」と呼ぶようになりました。
また、「かっぱのこどもは、人間と違ってよく見ればカカトがないのですぐわかる」ともいわれています。