戸田市人材育成基本方針
- 人材育成の目的
- これまでの取組と課題
- 組織が求める職員像
- 人材育成の取組
1.人材育成の目的
地方分権の進展により、地方自治体は厳しい財政状況のもと、持続可能なまちづくりと行政運営が求められています。そのような中、市民ニーズは多様化し、さらには、数十年に一度という規模の自然災害や、感染症の蔓延といった高度な課題への対処も必要となり、自治体職員に求められる能力は目まぐるしく変化してきています。
一方で、職員一人ひとりの価値観やライフスタイルも多様化し、その人らしく生きることの重要性が増してきており、今まで以上にワーク・ライフ・バランス等を意識した職場環境の実現や、職員自身の意識改革が求められています。
そのため、時代の変化に対応した能力や意識を持った職員を育成していくことは不可欠であり、これは令和3年度からはじまった戸田市第5次総合振興計画に掲げる「『このまちでよかった』みんな輝く 未来共創のまち とだ」の実現に向けた取組にも通じているところです。
本市では行政運営における資源としての「人材」を意識し、「人材」を「人財」に変えていくべく、戦略的な育成と活用を図っていきます。
2.これまでの取組と課題
戸田市人材育成基本方針は2001年(平成13年)3月に策定され、2007年(平成19年)3月、2012年(平成24年)1月、2017年(平成29年)4月の3回の改定を経て、現在に至っています。その中では、その時々の組織が求める人材像を明らかにし、時代の変化に対応できる人材を育成するための指針を定めてきました。そして、この人材像や指針は、戸田市を取り巻く環境の変化とともに、改定の度に少しずつ姿を変えてきました。
前人材育成基本方針では、戸田市の職員イメージである「気づき、支え、つないでゆく職員」を実現させていくために、職員を育成する仕組みと環境づくりを行ってきました。そして、この方針に基づき実施してきた各研修の終了後には、アンケートや受講報告書を通してその研修の効果を検証し、以降の研修計画等に役立ててきました。
しかしながら、時代は変わり、下記のような新たな課題が次々と生まれてきています。そのような中、前方針の理念も引き継ぎつつ、職員イメージを刷新し、それらに対応できる人材育成を行っていく必要が出てきました。
<新たな課題(一例)>
- 感染症対策や大規模な自然災害などを想定した危機管理の意識付け、迅速な対応・指揮ができるリーダーシップ能力の育成
- 将来を見据えた事業のスクラップと政策形成能力の向上
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の取組
- ワークライフバランスやメンタルヘルス対策
- 背景、思想、性別などの多様性(ダイバーシティ)への理解と受容
- 先人からの知識や技術の継承を含め、組織全体で連携・協力することができる人員配置や職務分担
- コンプライアンス意識の向上とハラスメントの理解促進
- 研修のみならず、人事評価制度による職員の更なるやる気の向上や個人の能力を最大限に引き出す取組
3.組織が求める職員像
市政を取り巻く環境が大きく変化していく中で、組織が一丸となって課題に対応していくためには、職員一人ひとりによる自発的な学びに加え、組織として目指す人材育成の方向性を示し、それを実現していくための取組が必要です。これは一朝一夕に成果が見えるものではありません。しかし、成長する方向性やその意義について理解を深めることは、職員が高い意識をもって、学びを継続していくためには大変重要です。本方針では、人材育成の方向性を「組織が求める職員像」として、次のように明らかにします。
組織が求める職員像
- 変化に柔軟に対応できる広い視野と行動力のある職員
- 多様性を認め、お互いの良さを活かして目的を達成していく職員
- 責任感が強く、主体的に行動できる職員
- 自らも成長しつつ、周りの成長も促すことができる職員
- 素直なこころを持ち、相手の立場に立って物事を考える職員
そして、上記の職員像すべてに通ずるものとして、これらを概括的に表現した「組織が求める職員イメージ」を次のように定めます。
<組織が求める職員イメージ>
- 柔軟な考えを持ち、自ら行動できる職員
職員に必要な能力・資質
組織が求める職員像に職員一人ひとりが近づくためには、様々な能力を身につけるとともに、職員としての資質向上が不可欠です。
能力という点でいえば、社会環境の変化を的確にとらえた上で政策を立案する「企画・立案能力」や、相手方の立場を理解しつつ、当方の状況を的確に伝え、理解と納得を得る「折衝・交渉能力」、数多くの情報から価値ある情報を取捨選択し、活用する「情報活用能力」などが挙げられます。
また、職員としての資質という点でいえば、戸田市を愛し、市民の目線に合わせ、市民の立場で発想ができる「市民の視点」や、市民と共にまちづくりに取り組む高い意識をもつ「市民との協働」、高い倫理を保持しつつ自らに課せられた課題に全力で取り組む「規律・コンプライアンス」などに対する意識を備えていることが必要です。
その上で、さらに職階ごとにその役割と職務を担っていく上で求められてくる能力や資質があります。以下にその一例を挙げますが、これらの能力や資質は特にその職階に求められているものであり、他の職階には必要ないというわけではありません。
職階級 | 役割 | 特に求められる能力・資質 |
---|---|---|
部長級職員 | 市の基本方針等に沿った長期的、総合的な視点で考え、判断する。部内の人事管理等のマネジメントを行う。 | 経営管理能力、経営戦略の立案・実践力、政治的折衝力、決断力、先見力、リーダーシップ、危機管理能力、規律・コンプライアンス |
次長級職員 | 部長を補佐しつつ、特に重要かつ困難な課題に取り組み、部局間の調整を行う。 | 政策・課題調整力、リーダーシップ、折衝力、対人能力、先見力、規律・コンプライアンス |
課長級職員 | 所属職員の能力を引き上げ、士気の高揚を図る。職場の総合力を高めるリーダーシップを発揮する。 | 政策決定・実践力、折衝力、意思決定力、対人能力、リーダーシップ、組織管理能力、危機管理能力、育成・コーチング力、メンタルヘルスに関する知識、規律・コンプライアンス |
主幹級職員 | 課長を補佐し、所属職員を指揮監督するとともに、自らもプレイングマネージャーとして業務に取り組む。 | 政策構成・企画力、対人能力、調整力、指導力、育成・コーチング力、メンタルヘルスに関する知識 |
副主幹級職員 | 施策を立案・実施し、担当をリードする。所属職員の相互融和を図り、勤務意欲の向上に努める。 | 業務専門能力、政策立案能力、計画・統制力、対応力、情報収集分析力、法務能力、育成・コーチング力、メンタルヘルスに関する知識 |
主査・主任級 |
副主幹を補佐するとともに、高度な識見を有し、業務を円滑に遂行する。調査から企画、立案し、これを処理する。 | 業務専門能力、後輩指導、企画立案能力、プレゼンテーション能力、政策形成能力、法務能力、市民の視点、市民との協働 |
主事・主事補級 職員 |
チャレンジする意欲をもって、広く学び、進んで実践する。必要な改良、改善に努め、他の職員とも連携・協調を図る。 | 基礎的知識、業務専門能力、接遇・コミュニケーション力、問題発見・解決能力、事務改善能力、政策形成基礎能力、法制執務基礎能力、市民の視点、市民との協働 |
現業職員 | チームワークとコスト意識をもって、業務を確実・迅速に遂行する。 | 基礎的知識、業務専門能力、問題発見・解決能力 |
4.人材育成の取組
人材育成の担い手は、職員一人ひとりであり、組織でもあります。職員は市政の担い手であるという自覚を持ち、自己研鑽を続ける一方、組織としては職員の働く環境を整えたり、自己啓発の機会を提供していくことが必要です。また、職員の仕事を適正に評価し、異動や昇任、人事評価を行っていく人事管理制度と連動させていくなど、個人の能力を組織力に繋げる仕組みづくりが必要です。
職員が自己の努力で成長することと、組織のバックアップを受けて成長することの両輪が機能することで組織が成長します。組織の成長は職員の成長を促し、戸田市の発展を支えていくことになります。
1.職員研修における取組
職員研修においては、大きく分けて、「職場研修(OJT)」、「職場外研修」、「自主研修」という3つの取組みがあります。担当業務に当たりながら研修をする「職場研修」を基本に、そこで得た知識や経験を補完したり、新たな知識を習得するために「職場外研修」や「自主研修」をバランスよく組み合わせていくことが重要となります。
研修区分 | 目的 | ||
---|---|---|---|
職場研修(OJT) | フレッシュトレーニング | 新規採用職員の職場への円滑な適応、OJT指導者の養成 | |
職場内研修 | 日常業務でのきめ細やかな指導を通した、一体的な業務知識等の共有、職員の育成 | ||
職場外研修 | 一般研修 | 階層別研修 | 階層別に必要な能力の強化 |
専門研修 | 各種専門知識の習得・能力の強化 | ||
派遣研修 | 各種研修機関 | 専門知識の習得、他自治体職員とのネットワーク強化 | |
自主研修 | 通信教育、e ラーニング研修等 | 自己啓発の取組みに対する支援 |
(1)職場研修(OJT)
日常の業務内で実施されている上司や先輩職員からの指導により、職員の成長を促すものであり、職員研修の基本はOJTであると言えます。OJTでは、担当業務に当たりながら研修をしていくことで、その内容に対する習熟度を高め、組織内における即戦力化を図ることやスペシャリストの育成が可能です。OJTでは「知る」「理解する」「経験する」が一体的に行われるため、最も効率的に職員を育成することができます。
フレッシュトレーニング
採用後概ね10日で各所属に配属となる新規採用職員に対して、職場への円滑な適応を目的として、職場での6ヶ月間のトレーニングを実施します。
職場内研修
新規採用職員に限らず、日常の業務を行いながら、上司や先輩職員からの指導を一体的に行うことで職員の育成を図ります。
(2)職場外研修
職場を離れて行う研修として、一般研修や外部機関への派遣研修があります。各職位に求められる能力の向上を図るだけでなく、短期間で集中的に専門的知識を習得することもできます。
一般研修
(1)階層別研修
新規採用職員、2年目・3年目職員、新任主任職員、新任管理・監督職など階層別に必要な能力の習得やスキルアップを図ることを目的として実施します。
(2)専門研修
階層別研修では扱わない、職員として知っておくべき知識の習得やスキルアップを図ることを目的として実施します。
派遣研修
OJT や一般研修では習得することが難しい専門的な知識や最新の知識を習得することを目的に実施します。また、他自治体職員と交流することで、改めて自身の課題を見つめ直すなど、自己啓発の意識を醸成するきっかけになることも期待されます。
派遣先は、彩の国さいたま人づくり広域連合、日本経営協会、全国建設研修センター、市町村アカデミーなどの候補がありますが、その時々に直面している課題や、課題解決に必要となる知識を習得できる派遣先を所属と協議しながら、また職員からの希望を聴取しながら決定していきます。
(3)自主研修
自主研修においては、職員の自己啓発の取組みを後押しするため、機会や情報を提供していきます。具体的な内容については下表のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
eラーニングの活用 | 公務員向けeラーニングによる学習機会を提供します。 |
啓発本の貸出 | 職員のステップ・アップの「きっかけ」や「動機づけ」を目的として、ビジネス本や教養本の貸出をします。 |
通信教育講座の受講支援 | 自治人材開発センターで受講を募っている各種通信講座の受講申込み代行及び受講料の負担を行います。 |
自主研究会への支援 | 市政を取り巻く課題等について調査研究するグループに対して、戸田市自主研究グループ活動助成要綱に基づき会議室・設備の使用許可や事務用品の支給などの支援を実施します。 |
資格取得補助の実施 | 行政として必置の資格に対して、取得支援を実施します。 |
聴講研修 | 研修に対する門戸を開放することを目的に実施します。職員が必要な時期に改めて研修を受講する機会を提供します。 |
2.人事管理制度における取組
人事管理の諸制度については、組織の視点からも重要である採用、人事異動、昇任、人事交流及び人事評価を中心に取り組んでいきます。
(1)採用
前ページに掲げる求める職員像となる可能性を秘めたより良い人材を獲得するため、採用活動を行います。
採用試験の広報
募集方法については、受験生の母集団を拡大していくために、彩の国さいたま人づくり広域連合、大学及び民間企業の採用説明会(対面)や、コロナ禍におけるオンラインによる説明会及び相談会に参加しており、他にもホームページや広報誌等での周知を継続しています。
今後については、採用困難職種に焦点を絞った採用活動、参加する採用説明会の範囲の拡大、既存のFacebook に限らず新たなSNS を活用した広報などを検討していきます。
採用試験の実施方法
採用試験については、小論文試験を廃止し、コロナ禍における「3密」を避けるため筆記試験の一部をテストセンター方式に変更しています。また、専門職については、試験官に各分野における管理職を加え、専門性を見極めています。
今後は、求める職員像となる可能性を秘めた人材を発掘するため、母集団形成に力を入れるとともに、試験方法について適宜見直しを図っていきます。
即戦力の確保
行政運営において、必置とされている資格者や、即戦力者を採用することで、職員の退職に伴う知識や経験が失われていくことや業務が停滞することなどのリスクを低減していきます。採用条件については、その時々に必要となる資格や知識、それらを継承していくために必要となる年齢層などを考慮し、決定していきます。
(2)人事異動、昇任及び人事交流
人事異動により新たな所属に配置されることで様々な所属を経験でき、また、昇任によるインセンティブが与えられ、より責任ある職務にあたることで、知識や経験を蓄積することができます。また、ワークライフバランスに配慮した上で、職員自身のキャリア形成につなげます。
職員一人ひとりが活躍できる職員配置
異動又は昇任をすることによって、異動前の所属や、昇任前の役職では得られなかった知識や経験などを習得することで、職員の能力向上が図られていきます。また、組織を活性化させていくためには、その組織が抱えている課題に対して対応できる能力を持った職員の配置も検討していく必要があります。人事異動では、市長ヒアリング及び総務部長ヒアリングの結果等を活用し、人材育成を見据えた職員配置を行います。
技術の継承
職員が退職するとその知識や技術、経験が失われるリスクがあります。異動を通して、知識などが失われることなく確実に継承されるために必要な人材を配置していきます。
人事交流
人事交流により他団体と連携し、各団体における技術や情報を本市に還元することで組織力の活性化を図ることができ、また、職員の能力向上に繋がり、本市の行政運営に対する客観的な視点を持った職員を育成します。
(3)人事評価
人事評価制度(能力評価・業績評価)を通して、「成果を上げた職員」を適切に処遇することで、職員のモチベーションや資質向上、組織の活性化につなげます。
制度の理解促進
人事評価制度の研修を実施し、繰り返し検証と見直しを行うことで、職員の制度に対する理解促進を図ります。また、信頼性や納得性の高い評価を行う過程で、上司と部下のコミュニケーションの活性化が図られます。
評価結果と職員研修の連携
人事評価制度の結果を職員研修に生かすことで、より有益な研修計画立案が可能となるため、人事評価と職員研修の連携を図ります。
3.職場環境・健康管理における取組
職場環境や健康管理の面から、人材育成を支援するため取り組んでいきます。円滑なコミュニケーションが図れる心理的安全性の高い職場環境づくりと、職員一人ひとりが日々健やかに職務に専念できるよう、心身の健康管理が必要となります。
(1)職場環境
職場内外でのハラスメント防止に努めるとともに、職員のワークライフバランスを支援します。
ハラスメントの防止
ハラスメントに関する正しい知識を身につけるための研修を実施し、ハラスメントが無い職場環境づくりを行うだけでなく、コミュニケーションが盛んな職場風土を醸成することで仕事の能率を向上させます。
ワークライフバランスの推進
職員の仕事と生活の調和(ワークライフバランス)に関する取組や制度等について、周知や利用促進を図ることで、働きやすい職場づくりを行います。
育児休業の促進
就労と子育ての両立しやすい職場形成を図るため、育児休業者がいる所属における労働力を補うことで、育児休業の取得できる職場環境を醸成します。
(2)健康管理
過重労働者に対する面談や定期的な健康相談を実施することで、職員の健康上のリスクを回避・軽減できるよう取り組んでいきます。また、ストレスチェックを実施することで、職員自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、職員がメンタルヘルス不調となることを未然に防止します。
過重労働対策の推進
過重労働者に対して定期的に産業医による面談を行い、本人へのアドバイスや各所属への指導等を実施していくことで、職員の心身の健康を守ります。
ストレスチェック制度の活用
ストレスチェックを毎年実施することで、実施時点の状況や前年度からの変化などを把握し、セルフケアを促すきっかけにします。また、高ストレス者には面談の機会を提供するなど、メンタルヘルス対策を進めていきます。
さらに、ストレスチェックの結果をもとに、職員が知りたいと感じているメンタルヘルスの知識や対応策について理解を促進するセミナーを開催します。
心身の健康に関する相談
心身の健康に関して不安を抱えている職員には産業医による健康相談を案内するだけでなく、共済組合の助成がある医療機関を紹介します。また、外部健康相談サービスを利用することで、オンラインやメール、電話でも健康相談ができる環境を提供します。
病気休職者の職務復帰支援
休職中の職員に対して定期的な面談を行い、職場とのつながりを持たせることで、職場復帰へのハードルを引き下げ、復帰時の訓練などにスムーズに移行できるようにします。