認知症の新薬が間もなく発売されます。この20年以上の間に開発された認知症治療薬の承認状況は、4勝146敗と惨憺(さんたん)たるものでしたが、やっと5勝目です。今回の新薬はメカニズムに働きかけて病理や病態を改善する「疾患修飾薬」で、今までの「症候改善薬」とは根本的に異なります。
ただ、この治療薬にはいくつかの大きなハードルが存在します。まず正確な「アルツハイマー病」の診断が必要となり、その検査に高額な費用と労力を要します。さらに、治療の効果は2年間病院に通い毎月点滴治療を受け続けても、進行が数カ月遅くなる程度です。しかも、ほとんど認知症症状のない初期に治療を開始しないと効果がありません。
認知症の新薬開発は本当に難しいものです。今回の新薬は大きな課題を残したままという印象ですが、診断技術の進歩や今後の新薬開発ではそれなりの貢献をしそうだと感じます。さらに今まで開発された薬が認知症に有効な可能性が示唆され、「ドラッグリポジショニング」も注目されています。私は神経内科医として認知症診療に関わるようになり約40年、自分自身の問題として認知症が身近に感じられる年齢となってきましたが、果たして我々の世代はこれら新薬の恩恵にあずかることができるのでしょうか…。
市民医療センター 所長 神経内科 飯島 昌一(いいじま まさかず)医師